偽婚
昼になったので近場で軽く昼食をとっていると、神藤さんは、携帯を眺めながら、物憂い顔になっていた。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや、実はさっき、お前がトイレに行ってる間に父から電話があって」
「うん?」
「見合いの件はどうなってんのかとか聞かれたから、俺たちが結婚したこととか言ったんだよ。そしたら、お前を連れて今すぐこいって」
「えっ」
ご両親とのご対面。
ゲームみたいだと思っていたこの生活に、いきなり現実が降りかかってきた。
「でも、この偽装結婚の第一の目的が父に納得してもらうためだから、そこを避けては通れないし」
「わかった。じゃあ、会いに行こう」
覚悟を決めてうなづく私に、神藤さんの方が「マジか」と驚く。
「だって、嫌なことはさっさと終わらせておいた方がいいし。それにさ、それも含めて私は神藤さんからお金をもらってるわけだし」
「お前、意外と腹が据わってんだな」
「そもそも、言い出したのは神藤さんでしょ? こんなことでビビってたら、この先、何かあった時にどうすんの?」
強く言った私に、神藤さんはため息混じりに「そうだよな」とだけ。
先ほどのジュエリーショップでのことは置いておくとして、とにかくこれからは、真面目に、夫婦らしく演じなくちゃならない。
ボロが出ないようにと入念に作戦会議をし、私たちは、共に戦う同士のように、手に手を取り合った。