偽婚
私の言葉に、梨乃も最後は「わかったよ」と言ってくれた。

初めて秘密を打ち明けたのが梨乃で、しかも認めてもらえたのは、やっぱり嬉しいと思う。



「でも、若い男女が一緒に暮らしてるのに、本当に何もないの?」

「ない、ない。そんな素振りすらないから、安心なの」


話していても甘い雰囲気になるようなことはないし、それ以前に、用もなければお互いの部屋に立ち入ることすらしない私たちだ。



「杏奈の中にも恋愛感情はない?」

「全然ないね」


そりゃあ、確かに、神藤さんはかっこよくて背が高くて、お金持ちの副社長で、おまけに気も合うけれど。

でも、やっぱり、私なんかとは釣り合わな過ぎて、好きになっていいような相手ではないと思う。



「どうせ1年後にはさよならするんだし、もし好きになったって不毛だよ」

「まぁ、そうだよねぇ。うちらなんて社会的に見れば底辺だし」

「だからさ、お金貯めようと思ったの。男は裏切るけど、お金は裏切らないもん」

「なるほどねぇ」


梨乃はすっかり納得したらしく、ふたりで「男なんて」と言い合いながら、笑った。

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