偽婚


夜になる頃、神藤さんから電話がかかってきた。

今日は残業予定でご飯はいらないと聞いていたから、そのまま梨乃と飲みに行こうと思っていたのに。



「思ってたより早く終わったから、飯まだなら、たまには外で食べないか?」

「えっと、今、友達といるんだけど」


目をやると、梨乃は手でオッケイの丸を作る。

私は謝罪のポーズを向けながら、電話口に「いいよ」と返し、待ち合わせ場所だけを確認して、電話を切った。



「ごめんね、梨乃」

「いいけどさ。その代わり、私も杏奈のダーリンに会わせてよ」

「はぁ?」

「いいじゃん、いいじゃん。私も保護者代わりとして、ちゃんと挨拶しときたいし」

「いや、どっちかっていうと、私の方が梨乃の保護者だと思うんですけど」


しかし、言い出したら聞かない梨乃なので、会わせるくらいはいいかなと思い直す私。

ふたりでカフェを出て、待ち合わせ場所に向かうことにした。

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