偽婚


その場で梨乃と別れ、私と神藤さんは近くの居酒屋に入った。

お金持ちの副社長でもこういうシケた店を訪れるのかと、驚いたものだけれど。


そのままふたりでビールで乾杯する。



「しっかし、すごいな、お前の友達は」

「まぁ、見た目はね」


苦笑いしか返せないけれど。



「でもさ、私、今まで辛いこといっぱいあったけど、いつも梨乃が一緒に泣いてくれたから、どうにかやってこられたんだと思う」


梨乃はどんな時でも私の傍にいてくれた。

だから今こうやって、私は笑っていられるのだ。



「あぁ、だからお前は、何があってもひねくれずに育ったわけか」

「それって褒めてる?」

「もちろんだ。バカで素直なお前の性格を、俺はいつも羨ましく思ってるよ」

「はぁ?」


相変わらず、神藤さんは余計な一言を付け加える。

でもやっぱり次には笑ってしまった。



「私ね、梨乃には幸せになってほしいと思ってるんだ」

「その前に、お前はまず、自分のことを考えろ」

「え?」


私のこと?

急に言われて戸惑う私の目を、神藤さんは真っ直ぐに見た。



「ずっと言おうか迷ってたけど、いい加減、元カレの件、どうするつもりだ?」
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