偽婚
翌日だった。
玄関が開く音がして、神藤さんが帰宅したのだなと思って出迎えようとしたら、見知らぬ男も一緒で驚く。
「へぇ。偽装結婚なんてどんなギャグかと思ってたけど、こんなに可愛い子と暮らせるのは羨ましいな」
いきなり、舐めるように私を見てにやつく男。
かなり怪しい。
「心配ない。こいつは俺の大学の同期で、弁護士の高峰(たかみね)だ」
「え? 話したの? てか、弁護士? え?」
「お前の友達が言ったように、確かにいざって時のために協力者がいてもいいかと思ってな」
男は――高峰さんは、気にせず勝手に部屋の中に入ってきて、キッチンにあるカレーの鍋を見つけるなり、「腹減ったなぁ」と言い出す。
本当にこれで弁護士なのかと疑わしかったが、仕方がないので高峰さんの分も皿を出した。
神藤さんはネクタイを緩める。
「お前の元カレの件を話したら、興味を持ったみたいでな。ついてきたんだ」
「杏奈ちゃんなら、無報酬でいいよ。可愛い女の子を守るために、俺は弁護士になったんだから」
渡された名刺には、ちゃんと弁護士だと書いているけれど。
こんな軟派な感じでいいのかと、激しく不安を覚える私。