偽婚
しかし神藤さんは言った。



「お前が考えてることは手に取るようにわかるけど、安心しろ。こいつは、腕だけはいい弁護士だ」

「おいおい、腕だけかよ」


神藤さんに嫌味を言われても、高峰さんは笑うだけ。

何だかんだで仲がいいんだろうなと思った。


高峰さんは、急に真面目な顔をして、私に向き直る。



「元カレの件もだけど、アパートの件もだよ。耐震偽装が発覚したのに引っ越し代すらもらってないなんてありえない」

「え? だってそれは、住人説明会でそう言われて」

「だから、そういう理不尽なことに立ち向かうために弁護士がいて、公正な判断をしてもらうために司法の場があるんだ」


目からうろこだった。


今までは、どんなに辛いことでも受け入れて、前に進むべきなのだと思っていた。

けれど、高峰さんは、「戦わなきゃ、ずっと負けっぱなしだよ」と、強く言う。



「何かすごいね、高峰さん」

「だろ? 惚れた?」

「全然。でもよくわかんないから全部任せるよ。よろしくお願いします」


頭を下げた私を、高峰さんは笑った。
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