偽婚
「いい子だな、杏奈ちゃん。俺なら3日もしないうちに押し倒してるところなのに。よく我慢してるな、神藤」


冗談なのか本気なのかわからない高峰さんの言葉にひどく呆れた顔をした神藤さんは、肩をすくめ、「ちょっと仕事の電話してくるから」と、自室に消えた。

その後ろ姿を見送った高峰さんは、また笑う。



「神藤ってめんどくさい性格してるだろ? 一緒に暮らしてて苦労しない?」

「でも楽しいよ? 『楽しい』って思えてる今の状況にも、感謝してるし」

「そっか。それならいいんだ」


高峰さんは煙草に火をつけ、煙を吐き出す。



「あいつはあいつなりに色々抱えてて、だから偽装結婚なんてしたんだろうけど。でもその相手が杏奈ちゃんでよかったよ」

「………」

「神藤のこと、よろしく頼むな」


どういう意味?

と、聞くより先に、神藤さんが戻ってきた。



「おい、高峰。お前、俺がいない間に杏奈に何か余計なこと言ってないか?」

「神藤との偽装結婚が終わったら俺と本気で結婚してくれってプロポーズしたんだけど、見事に断られたよ」

「賢明な判断だな」


くだらないやり取り。

だけど、高峰さんは、神藤さんの前ではもう、先ほどの話には触れないつもりらしい。


何だかよくわからないけど、神藤さんが私と偽装結婚した理由が、他にもあるってことだろうか?

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