偽婚
高峰さんが帰り、急に静かになったリビングで、息をつく私たち。
「おもしろい人だったね、高峰さんって。大学の同期だっけ?」
「サークル仲間で、今じゃただの、腐れ縁ってだけだ」
「いいじゃん。どんな形でも、縁は縁だよ。大事にしなきゃ」
私の言葉に、神藤さんは肩をすくめて見せるだけ。
先ほどの疑問を解消したい気持ちもあるが、でも無理に聞き出すべきではない。
この偽装結婚に、他にどんな理由があるにせよ、それは私には関係のないことだから。
「ありがとね、神藤さん」
「ん?」
「何か、私、神藤さんと出会ってから、色んなことが上手くいってる気がするから。だから、ちゃんとそれ、伝えとかなきゃと思ってさ」
私の言葉に、神藤さんは少し驚いた顔をして、でも次にはふっと笑って見せた。
「お前といると気が抜ける」
また嫌味を返されるのだろうと思っていたが、でも私の予想に反し、神藤さんは、「誰かと暮らすのも悪くないもんだな」と付け加えた。
それはつまり、神藤さんにとって、私といる時間は安らげるということだろうか。
じゅうぶんだなと思いながら私も、神藤さんと一緒に笑った。