偽婚
仮面
煌びやかなシャンデリアの下、クラシックの生演奏が流れる、広いホール。
人々に紛れ、着飾った私と神藤さんは、完璧なる偽物の夫婦を演じる。
「お久しぶりです、市川社長」
「おぉ、神藤くん。結婚おめでとう。そちらが噂の美人妻か。いやぁ、羨ましい」
「ありがとうございます。社長夫妻のようになれるよう、精進します」
ことの起こりは3日前。
突然、神藤さんは、『ふたりでパーティーに出席することになった』と言った。
何でも、お母様が息子の結婚を友人に伝えたところ、話はみるみるうちに広がり、『紹介ついでに連れてこい』と、まわりに強く言われ、断れなかったらしい。
お金持ちの社交界。
私にとっては異次元の集まりだが、でも神藤さんの妻として、とにかく失敗はできない。
「神藤くんじゃないか」
代わる代わる、人がくる。
このパーティーがどれだけ重要な場かということは、わかっているつもりだ。
横にいる神藤さんですら顔に緊張が見えるので、私は内心、逃げ出したい気持ちだった。