偽婚
とんでもない悪口のオンパレードに、驚くより笑ってしまいそうだった。

神藤さんは、そんな私を横目に見る。



「さんざんな言われようだな」

「別に、女の悪口は慣れてるし。それより神藤さんこそ、お金持ちのご令嬢に狙われてたみたいだけど?」

「あんな女共、こっちから願い下げだ」


人のことを悪く言わない神藤さんにしては珍しい台詞だなと思った。

しかし、どうしたものかなと思っていたら、わざとらしく笑顔を作った神藤さんは、私の腰を引いて歩き出す。



「えっ、ちょっ」


いきなりのことに困惑する私をよそに、神藤さんは、彼女たちの前に立った。

噂話の相手が急に目の前に現れ、ぎょっとする面々。



「すみません。僕と妻の話が聞こえたもので。よろしければ会話に混ぜていただけますか?」


にこやかに、でも言葉には棘が混じっている。

私は思わず笑い出しそうになってしまったが、しかし目前の彼女たちは焦りながら、逃げるようにその場をあとにする。


蜘蛛の子を散らすようにいなくなる面々の背を見送りながら、「本人の前で言えないなら、最初から言うなよ」と、神藤さんはもっともなことを吐き捨てた。
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