偽婚
「お前と出会ったあの日は、兄の命日だった。兄が轢き殺された日に、今度は俺が人を轢き殺すところだった」

「………」

「でも、結果的に、それでお前と出会えてよかったと、今は思ってるよ。感謝もしてる」


珍しく、素直な言葉をくれた、神藤さん。

褒められているのか何なのか、私は曖昧にしか笑えないけれど。



「明日は約束通り、好きなもん奢ってやるよ」

「マジで? やったー!」


飛び上がって喜ぶ私を、また神藤さんは笑った。



人は決して完璧にはなれないし、ひとりでも生きられない。

だからこそ、誰かと支え合い、足りない部分は補い合えばいい。


私と神藤さんは、改めて缶ビールで乾杯しながら、互いの今日の疲労をねぎらった。

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