偽婚


京都はちょうど桜が見頃で、古都の景色と相まって、見惚れるほどの美しさだ。



「すっごーい! きれー!」


興奮して写真を撮りまくる私。

地元から離れているため、神藤さんの妻として演じる必要もなく、私は思う存分、はしゃいでしまう。



「見て! 桜の花びらで、川がピンク色になってるよ!」

「『桜の川』って呼ばれてる。これを見るためにわざわざ海外からくる観光客もいるらしい」

「確かに、外国人だらけだよね。でも綺麗だと思うものは万国共通ってことじゃない?」

「それはそうなんだろうけど、いいから少しは落ち着けよ」


はしゃぎ続ける私を、神藤さんは呆れた顔で見ていた。



「ねぇ、次はあっちに行ってみようよ!」


駆け出した瞬間、石畳の隙間にヒールを取られ、よろめく私。

「わっ」と声が出たのと同時に、咄嗟に神藤さんに抱き留められ、どうにかことなきを得たのだけれど。



「バカ。だから落ち着けって言ったんだよ」

「ごめん」


何だか妙にドキドキする。

それは、転びそうになったからなのか、それとも神藤さんの腕の中にいるからなのか。


しかし、神藤さんはそんな私の気なんて知らない。
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