偽婚
「大体なぁ、京都は砂利道とか石畳とかが多くて、歩きづらいんだよ。なのに、そんな靴履いてるから」

「何それ。せっかくの旅行だから、可愛い靴履きたかっただけなのに。だったら家出る時に言ってよ」

「知るかよ。いちいちお前の靴まで気にしてられるか」


今しがたの胸のときめきもどこへやら。

いつものように言い合いになりかけた時、珍しく先に引いたのは、神藤さんの方だった。


ため息を吐いた神藤さんは、私に右手を差し出す。



「何?」

「迷子にでもなられたら困る」

「ならないよ」

「うるさい。大人しくしとけ」


そう言って、神藤さんは強引に、私の左手を取った。

繋いだ手を引き、歩き出す、神藤さん。


何だかデートみたいな感じで、ひどく気恥ずかしいくなってしまうが。



「私、宇治抹茶ケーキ食べてみたい」

「そうだな。ついでにこっちのカフェに行ってみるのもいいかもな」

「また仕事のこと考えてるでしょ」

「俺はどんな時でも、常に仕事のこと考えてんだよ」

「趣味とかないもんね、神藤さんって」

「嫌味か」


言い合っているのに、手を繋いでいるのが、何だかちぐはぐだ。

でもおかげで少し、気恥ずかしさは消えた。


非日常の中で、たまにはこういうのもいいのかもしれないなと思い直す私。

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