偽婚
考えないようにしようと思っているのに、やっぱり神藤さんといると、考えてしまう。
『美嘉』って誰?
神藤さんの好きな人?
でも、だったら偽装結婚の相手は、私じゃなくてその人に頼めばいいのに。
「おい、飲み過ぎだぞ。大丈夫か?」
言われて手元を確認する。
考えごとをしながら飲んでいた所為で、早いペースで酒瓶が空になっていた。
「何か、神藤さんがぐるぐるまわってる」
「それは、俺じゃなくて、お前の酒がまわってんだろ」
酒瓶1本を空にした私とは対照的に、神藤さんはまだ半分も飲んでいなかった。
「お前、もしかして、日本酒弱いんじゃないのか?」
「んー……」
「って、何か本格的にやばくないか? ほんとにもう寝ろよ」
手からグラスが奪われた。
確かに目がまわるので、うなづき、立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
「おいおい、マジかよ」
呆れた顔をしながらも、神藤さんは私に手を貸してくれる。
人のぬくもりに、こんな時だからか、ひどく安心している自分がいた。
「ほら、立てるか? 布団まですぐだから、頑張れよ」
「ん……」
「杏奈! おい!」
名前を呼ばれたあたりで、私の意識は暗転した。