偽婚
疑問
あの日、あのあと、帰りの新幹線で、神藤さんは一言も喋らず、ずっとタブレットと睨めっこだった。
「はぁ!? 酔っ払って一緒の布団で寝たのに、何もなかったの!?」
翌日、旅行の土産を渡すという名目で梨乃を呼び出し、神藤さんとのことを相談したのだけれど。
いつぞやのデジャブみたいに、梨乃は大声を出した。
「手繋いだのに!? 寝ぼけてたとはいえ、キスされそうになったのに!? なのに、何もなかったの!?」
「何かあった方がいいみたいな言い方だね」
「そりゃあ、だって、男女が旅行に行って何もない方が不自然でしょ!」
「いや、でもほら、私たち、偽装結婚だしさ。それに、神藤さん、好きな人いるんだから、私になんて手出さないでしょ」
「だからって、据え膳食わぬは男の恥だよ! 神藤さん、不能なんじゃないの!?」
その勢いに、私は完全に引いていた。
梨乃は大きなため息を吐く。
「で? 相談って?」
「だからさ、どうして神藤さんは、『美嘉』って人じゃなくて、私と偽装結婚したのかって話で」
「そんなの知るわけないでしょ」
私の相談は、一言で一刀両断にされてしまう。