偽婚
本当の結婚なんて、私はするつもりがないのだから。

だから、旅行で感じた妙な胸のときめきは、やはり勘違いということにしておきたかった。



「梨乃さぁ、もしかして、私と神藤さんのこと、くっつけようとしてない?」

「あ、ばれてた?」

「やっぱり」

「そりゃあ、だって、私も神藤さんのセレブ友達紹介してもらいたいし」

「あんたねぇ」


ちっとも悪びれていない顔の梨乃。

嫌な予感が的中し、私はがっくりと肩を落とす。



「恋愛なんてねぇ。もうやり方すら忘れちゃったよ」


今の私の生活は、何不自由なく、満たされているのだ。

なのに、不毛な恋なんかして、身も心も削りたくない。



「でも、神藤さんは杏奈のこと、嫌いじゃないと思うけどなぁ」


梨乃の言葉に、私は肩をすくめて見せるだけ。

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