偽婚
提案
あれから1週間。
私は元の元気を取り戻し、今日もしっかり引っ越し代を稼ぐために出勤する。
「あ、おはよう、アンナ」
声をかけてきたのは、『ティアラ』の一番の古株で、同い年のナナ。
「ねぇ、体入してたよね。見た?」
「可愛かったよね。あの子、18だってさ」
「18かぁ」
ナナはのけ反るように椅子の背もたれに背をつき、取り出した煙草に火をつけた。
「うちらなんてもうおばさんだよね。私、最近、ずっとこのままでいいのかとか色々考えちゃうもん」
23歳。
一般社会では新入社員も多い年齢だけど、若さが売りのこの店では、私たちはすでに旬を過ぎたような扱いだ。
「ナナ、店替えすんの? それともキャバ上がるつもり?」
「わかんないけどさぁ。アンナはそういうこと考えたりしない?」
「うーん。どうかなぁ」
確かに、ずっとこのままでいいわけはない。
けれど、今の私は引っ越しのことで頭がいっぱいで、他のことにまで気がまわらないというのが正直なところだった。
そんな私に、ナナはバッグから取り出したものを見せる。