偽婚
高峰さんが帰ってすぐに、着替えを終えた神藤さんが自室から出てきた。
疲れているだけなのか、相変わらず、不機嫌な顔のままだ。
「何しにきたんだ? 高峰は」
「私の元カレの件とかのことで」
「そんなの玄関先で話せば済むことだろ」
神藤さんの友達なのに?
お世話になってるのに?
それってちょっと薄情すぎるよと思ったけれど、でも今の神藤さんには何を言っても無駄な気がした。
「ご飯、食べるでしょ? 温め直すから、ちょっと待ってて」
キッチンに入り、コンロに火をかける。
私の前での神藤さんは、くだらないことばかり言って、笑う人。
朝はテンションが低いけど、それでも今みたいに、まわりに当たり散らすようなことはなかったのに。
悶々と考えているうちに、鍋が煮立ったので、蓋を取ろうと手を伸ばした時。
「熱っ」
蓋ではなく、鍋に指が触れてしまった。
「バカ! 何やってんだよ!」
私、ほんとにバカだ。
泣きそうになった時、慌てた神藤さんがキッチンに入ってきて、私の手を掴んで引いた。
すぐに流水に浸けられる。