偽婚
冷たい水。

でもそれとは真逆に、体はどんどん熱くなる。



「あのなぁ、ちょっとした火傷でも、痕が残ったら消えないんだぞ。お前、女だろ。少しはそういうこと気にしろよ」


耳に、ダイレクトに神藤さんの声が響く。

気付けば後ろから抱き締められるような恰好だ。


密着するのなんて、今まで当たり前だったはずなのに。



「お前はほんっと、どんくさい」

「ごめん」

「ついでにバカだし、無防備だ」


バカなのは否定しないけど。



「無防備って何よ」

「だってそうだろ。酔っ払って俺に抱き付いて寝るし、かと思えば高峰なんかをやすやすと家に招き入れて」

「もしかして、そんなことで怒ってたの?」

「『そんなこと』って何だよ。少しは危機感を持てよ。じゃなきゃ、何されたって文句言えないぞ」


言うが先か、神藤さんは私のうなじをぺろっと舐めた。



「ひゃっ」


声を上げて飛び跳ねると、体が離れる。

うなじを押さえたまま、私は慌てて振り向いた。



「な、何やって」

「これくらいされても文句は言えないって話だ」
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