偽婚
遠くからの神藤さんの声に、びくりと体が跳ねる。

すっかり忘れていて、どう言い訳しようかと思った。



「何なんだよ、この騒ぎは! つーか、お前、何やってんだよ!」

「いや、ごめん。落ち着いて。別にこれは私が悪いわけじゃなくて、この女の人が男たちに絡まれてたから」


言った瞬間、神藤さんはそこで初めて女性に気づいたらしい。

その顔が向いた瞬間、



「柾斗!?」


女性が神藤さんの名前を呼んだ。


知り合いだった。

しかも、神藤さんを名前で呼ぶ仲の。



「何で美嘉が……」


『美嘉』って。

じゃあ、この美人が、神藤さんの好きな人ってことか。


何がどうなってこんなことになっているのかはわからないが、しかし戸惑っているのは私だけではなかったらしい。



「まず、説明してくれ」


神藤さんの言葉に、私ではなく美嘉さんが慌てて答える。



「違うのよ。彼女は悪くないの。私が男たちに絡まれてたところを助けてもらっただけで」


同じ説明。

神藤さんは、大きなため息を吐いた。



「もういい。わかった。とにかく今は、杏奈の傷の手当てが先だ」
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