偽婚



帰宅して、私をソファに座らせた神藤さんは、救急箱を持ってきた。



「手、出せ」


まだ怒ったままの顔。

素直に手の平を差し出すと、神藤さんは消毒剤で湿らせたコットンでそこを拭う。


ぴりぴりとした痛みが走った。



「お前はどんくさくてバカで無防備だと思ってたけど、さらに無鉄砲だったとはな」


片膝を立て、床に座って、私の手の手当てをする神藤さん。

その顔がこちらに向くことはない。



「だからそれはさっき謝ったじゃん」

「ほんとに危なかったってわかってんのかよ」

「でも結果的には神藤さんの知り合いを助けられたんだから、よかったじゃん」

「美嘉が助かったってお前が何かなってたら、誰も嬉しくない」

「それはそうかもしれないけど」

「頼むから、殴られてもいいなんて冗談でも思うな」

「まぁ、そうだよね。今、私が死んだら、戸籍を見られて、神藤さんと籍が入ってないのがばれて、大変なことになるもんね」

「俺が心配してんのはそんなことじゃねぇだろ!」


大声に、またびくりと肩が跳ねる。

神藤さんは、私を掴む手の力を強くする。



「俺はお前自身の心配をしてんだろうが! 何でわかんないんだよ! お前はもっと自分のことを大切にしろ!」
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