偽婚
私自身のこと。



「ありがとう、神藤さん」

「……は?」


そこでやっと顔を上げた神藤さんは、眉根を寄せている。

しかし私は、笑ってしまった。



「私、人に心配された経験、あんまりないからさ。だから忘れてたけど、いいもんだなぁ、って」

「何を喜んでんだよ」

「神藤さんと偽装結婚してよかったなぁ、って話だよ」


私の言葉に、神藤さんは脱力したように息を吐いた。



「お前と話してたら、力が抜ける」

「力が抜けてるくらいの方が、ちょうどいいんじゃないの?」

「勘弁してくれ。さっきの騒ぎで、せっかく考えてた企画案が頭から吹っ飛んだ」

「わっ、それは大変だね」

「ほんとだよ。正直、仕事のことも美嘉のことも頭になかった。お前の心配しかしなかった自分に自分で驚いてるよ」

「えっ」


私も、驚いた。

神藤さんは止めていた手を再び動かし、私の手に絆創膏を貼っていく。


今なら聞いてもいいのだろうか。



「ねぇ、神藤さん」

「何だ」

「正直に答えてほしいことがあるの」

「何を」

「美嘉さんのこと、好きなんじゃないの?」
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