箱庭ガール
春1
春 ~再会~
「カーテン、どんな雰囲気の物がいいかな? 花菜(かな)ちゃんの好きな色は?」
柔らかで穏やかな声が、花菜の耳に優しく響いた。
「ええっと、好きな色、……ですか?」
「敬語なんて使わなくていいよ」
そう言いながら、昔と変わらない笑顔で彼は微笑う。
敬也(たかや)と会話をするのは、約四年ぶりだった。
たった四年とはいえ、成長期だった一つ上の彼は、驚くほどに容姿が変わってしまっていたのだ。
そのせいで、花菜は初対面の人と話しているような気持ちになってしまう。
「あの、かなり遅くなっちゃったけど、大学進学おめでとう」
「ありがとう。今年は花菜ちゃんが受験生だね。応援してるよ。この春休みの間に、早く家に慣れてね」
「あ、はい。ありがとうございます。あの、でも私、大学へは――」
「あ、ほら、また敬語になってる」
「え、あ、つい……」
敬也の笑顔につられて、花菜も少しだけ笑顔になった。
「それにしても敦大(あつひろ)のやつ、今日は花菜ちゃんが引っ越してくる日だから、出掛けずに家に居ろって言ったのにな」
二人で歩道をゆっくりと歩いていると、薄紅色の花びらが軽やかに視界の端を舞った。
見上げると、柔らかな日射しの中で、桜の木が屏から顔を覗かせている。
「お花見も兼ねた花菜ちゃんの歓迎会。楽しみだね」
敬也も頭上を見上げると、眩しそうな表情で言った。
そう、今日は、花菜の新しい生活が始まる日だ。
そう、新しい人生が始まったのだ。
花菜は思う。これからは、しっかりと前を向いて歩いて行かなければならない。いつまでも俯いていては駄目なのだ。
自分は、一人でも強く生きていかなければ。
そうだ、いつもの元気はどうした?
それだけが、私の取り柄だったじゃないかと。
数週間前、突然両親が亡くなった。
旅行中に夜行バスで事故に遭ったのだ。
事故の原因は運転手の居眠り運転。
ガードレールを突き破り、そのまま海へ転落したそうだ。乗客の殆《ほとん》どが亡くなり、その中に花菜の両親が居た。
最初に耳にしたときには信じられなかった。漫画やドラマの世界であるような不幸が、まさか自分の身内に起こるなんて。
花菜は真っ白になった回らない頭で、これからどうしたら良いのかを考えた。
彼女には、母方の祖母がまだ母の実家に住んでいた。
けれども、そこには伯父さん夫婦とその子供たちが住んでいるので、そこでお世話になる事に、何となく抵抗を感じた。
考えただけで、申し訳ない気持ちで一杯になってしまうのだ。
でも、これから高校三年生に進級するような人間には、仮に退学をして働いたとしても、始めのうちは大人の助けがなければ生きてはいけないだろう。
「どうしよう……!!」
先の見えなくなった未来に打ちひしがれていたところに、ある人たちが、花菜に救いの手を差しのべてくれた。
それは、火葬場での事。
「カーテン、どんな雰囲気の物がいいかな? 花菜(かな)ちゃんの好きな色は?」
柔らかで穏やかな声が、花菜の耳に優しく響いた。
「ええっと、好きな色、……ですか?」
「敬語なんて使わなくていいよ」
そう言いながら、昔と変わらない笑顔で彼は微笑う。
敬也(たかや)と会話をするのは、約四年ぶりだった。
たった四年とはいえ、成長期だった一つ上の彼は、驚くほどに容姿が変わってしまっていたのだ。
そのせいで、花菜は初対面の人と話しているような気持ちになってしまう。
「あの、かなり遅くなっちゃったけど、大学進学おめでとう」
「ありがとう。今年は花菜ちゃんが受験生だね。応援してるよ。この春休みの間に、早く家に慣れてね」
「あ、はい。ありがとうございます。あの、でも私、大学へは――」
「あ、ほら、また敬語になってる」
「え、あ、つい……」
敬也の笑顔につられて、花菜も少しだけ笑顔になった。
「それにしても敦大(あつひろ)のやつ、今日は花菜ちゃんが引っ越してくる日だから、出掛けずに家に居ろって言ったのにな」
二人で歩道をゆっくりと歩いていると、薄紅色の花びらが軽やかに視界の端を舞った。
見上げると、柔らかな日射しの中で、桜の木が屏から顔を覗かせている。
「お花見も兼ねた花菜ちゃんの歓迎会。楽しみだね」
敬也も頭上を見上げると、眩しそうな表情で言った。
そう、今日は、花菜の新しい生活が始まる日だ。
そう、新しい人生が始まったのだ。
花菜は思う。これからは、しっかりと前を向いて歩いて行かなければならない。いつまでも俯いていては駄目なのだ。
自分は、一人でも強く生きていかなければ。
そうだ、いつもの元気はどうした?
それだけが、私の取り柄だったじゃないかと。
数週間前、突然両親が亡くなった。
旅行中に夜行バスで事故に遭ったのだ。
事故の原因は運転手の居眠り運転。
ガードレールを突き破り、そのまま海へ転落したそうだ。乗客の殆《ほとん》どが亡くなり、その中に花菜の両親が居た。
最初に耳にしたときには信じられなかった。漫画やドラマの世界であるような不幸が、まさか自分の身内に起こるなんて。
花菜は真っ白になった回らない頭で、これからどうしたら良いのかを考えた。
彼女には、母方の祖母がまだ母の実家に住んでいた。
けれども、そこには伯父さん夫婦とその子供たちが住んでいるので、そこでお世話になる事に、何となく抵抗を感じた。
考えただけで、申し訳ない気持ちで一杯になってしまうのだ。
でも、これから高校三年生に進級するような人間には、仮に退学をして働いたとしても、始めのうちは大人の助けがなければ生きてはいけないだろう。
「どうしよう……!!」
先の見えなくなった未来に打ちひしがれていたところに、ある人たちが、花菜に救いの手を差しのべてくれた。
それは、火葬場での事。