箱庭ガール
夏9
 この家に住むのは一年間だけ。
 そう約束してもらったのだ。

 いつまでも他人様にお世話になってはいられない。祖母にも迷惑はかけられないため、大学へは行かずに就職すると言ってある。

 自分は早く自立しなければならないのだ。
 それでもなかなか就職が決まらないのだけれど。


(来年の私は、どこで何をしてるんだろう)


 考えるのが怖い。
 そう思いながら花菜は布団に寝転ぶ。
 不安な気持ちを胸に充満させたまま、彼女はゆっくりと瞳を閉じた。







「暑い……」


 敦大の独り言に花菜が返す。


「もうすぐ八月も終わるのにね」


 敦大は自分のベッドに寝転び、花菜と敬也は小さなテーブルに向き合って座っていた。
 今日は敦大のログハウスで過ごしている。まだまだエアコンの電気代節約の日々は続きそうだ。

 両親の初盆も済み、あっという間に、朝晩は秋の気配を感じる時期になってしまった。
 

「宿題が終わったのはいいけど、ちょっと暇だよね」

「俺はごろごろするのも嫌いじゃないけど」

「ごろごろする時間があるなら、敦大は部屋の掃除をしろよ。足元、ゲームのコードが邪魔だよ。あとスマホのコードも。ちゃんと片づけて」


 敬也が穏やかに注意したが、敦大は聞く耳を持たないようだった。


「動くと暑くなるから嫌だね。別にいいだろ。放っとけよ」


 そう言うと、敦大はテレビのリモコンを掴んでテレビに向けた。聞こえてきたのは天気予報だ。


「へえ、午後は天気急変で激しい雷雨だってさ。道理でさっきから外が薄暗いわけだ」


 敦大の言葉にどきりとする。花菜は雷雨が嫌いだ。

 両親が亡くなったあの日が激しい雷雨だったからだ。
 雷が怖いというよりかは、あの日の強い孤独感を思い出して、急に不安な気持ちになってしまうから嫌いなのだ。


「そっか、これから雷が来るんだね……」


 花菜はぼんやりとテレビ画面に視線を向けたまま呟いていた。


「じゃあ、部屋に戻ろうかな。雷が鳴ってる間は、この部屋も暑くなるもんね」


 そして窓の外に視線を移す。
 西の空が暗くなってきていた。間もなくして遠雷が聞こえてくるだろう。

 不安そうな自分を、彼女は誰にも見られたくない。


「え、もう戻るのか?」


 敦大がベッドから起き上がりながら言った。


「うん。じゃあ、また夕飯にね」


 花菜はログハウスのドアを開けて外へ出る。
 湿っぽい風が、力強く彼女に吹き付けた。
 天気が荒れる前の吹き方だ。
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