箱庭ガール
秋2



 午前の授業が終わると、すぐにホームルームが始まり解散になった。
 外はまだ荒れてはいなかったけれど、風は朝よりも確実に強くなってきていた。


「うわ~! おでこぜんか~い」


 昇降口から出ると、雅喜は楽しそうに額に手を当てながら叫んだ。


「風、結構強くなってきたね」


 そう返すと、花菜は薄目で歩き始めた。周りの生徒たちも、早足で校門へと向かっている。向かい風なためか、みんなやや前傾姿勢だ。


「電車、走ってるといいけど」

「遅延はあるかもしれないけど、まだ止まってはいないんじゃないかな。急ごう」

「うん」


 そう花菜が返事をした次の瞬間、雅喜は花菜の手を取って歩き出した。それは強引ではなく自然に繋がれた。


「え、あの……」

「こうした方が早く着くよ」

「あ、うん……」


 花菜は戸惑いながらも、雅喜に手を引かれたまま、早足で駅へと向かった。

 駅まで辿り着くと、そこはまるで朝のラッシュ並かそれ以上の混雑具合だった。
 案の定、電車が遅延しているらしい。

 それから十分ほどして、電車がホームへとすべり込んできた。
 次はいつ頃来るのか分からないため、出来ればこれに乗ってしまいたいのだが……。


「花菜ちゃん、行こう」

「え?」


 花菜の手を握る雅喜の手に、僅かだか力が入る。そしてそれは、再び花菜を引っ張り始めた。
 窮屈な人波を少しずつ進む。


「乗るの?」

「もちろん。今乗らなかったら帰れなくなっちゃうよ? 台風は待ってくれないよ~」

「でも、乗れるかな?」

「ま、俺はもっと花菜ちゃんと一緒に居たいんだけどね」


(あ――)


『花菜ちゃん、返事、待ってるからね』


 あの日の雅喜の言葉と、彼の真剣な眼差しが脳裏を掠めた。


「でも流石に今日はダメでしょ~」


 開いている乗車口へと近付くと、駅員に力強く押し込まれた。


「よし、なんとか乗れたね。このまま頑張ろう」

「う、うん。あの、小野くん、ありがとう。小野くんが居なかったら、たぶん途方に暮れてたと思う」


 花菜が礼を言うと、彼は目を細め、華やかな表情で微笑んだ。


「だ、か、ら、一緒に居るんだってば~」


(え?)


 それはどういう意味だろうと花菜は思う。
 彼は、自分が困ると思って一緒に帰ろうと誘ってくれたのだろうか。


「花菜ちゃん、」
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