箱庭ガール
秋5
突然、ぽつりと冷たい物が頬に当たった。それはあっという間に数を増やす。
「あ、降ってきた!」
「早く入るぞ」
花菜は急いで鞄から鍵を取り出すと、ログハウスのドアを開けて中へ入った。
夏の終わりに敦大から譲り受けたログハウスは、カーテンと布団を変えただけでもだいぶ雰囲気が変わった。
「ほんとこの部屋、置いてある物があんたの物になっただけなのに随分と変わったように見えるよな」
敦大が控え目に部屋を見回しながら椅子に腰かけた。
「そうだね。あ、何か飲む?」
花菜は鞄を置くと、小さな食器棚へ向かいながら声をかけた。
「あ、俺が自分でやるから座れば?」
敦大も立ち上がり、食器棚まで歩いてくると隣に並んだ。
彼は最近になって、また身長が伸びたようだ。夏の頃よりも頭の位置が高くなっている。
「あっくん、最近また身長伸びたよね」
「あんたは伸びないよね」
「私だって、まだ少しは伸びてるはずだよ。あっくんが伸び過ぎなんでしょ」
春に再会したときは視線の位置が同じだったはずだ。だけど今では、頭一つ分くらい敦大の方が高くなっていた。
変わったのは身長だけじゃない。手も大きくなったし、肩幅もしっかりしてきた。
やっぱり敦大も男の子なのだと、花菜は何となく考えた。
「あっくんも、だんだん頼人パパに似てくるのかな」
「え?」
敦大はやかんをガスコンロに置きながら花菜を振り返った。
「敬也くんも頼人パパに似てきたでしょ? 優しいし、穏やかだし、頼りになるし。まあ、敬也くんのそういう所は昔からかもしれないけど」
「……」
「あ、でも、あっくんの顔は敦子ママ似かなぁ?」
敦大がゆっくりとこちらへ戻ってくる。
「だって、あっくんって顔は可愛いもんね。性格だって昔は――」
敦大の視線が花菜を射る。
その表情に、彼女は言葉を失った。
「あんたは兄貴が気に入ってんの? 優しいし、穏やかだし、頼りになるから。兄貴は俺とは真逆だよな」
「そんなことないよ。あっくんだって優しいじゃない。ごめん、なにか怒らせた?」
花菜の言葉に、敦大は軽く首を振ると、気を取り直したようにして口を開いた。
「いや、悪い。今日は気分良く過ごすって決めてたのにさ。あんたも誕生日なんだし」
「そうだった。朝は会えなかったから遅くなっちゃったけど、あっくんもおめでとう」
「お、おう」
そう、今日は花菜だけではなく、敦大の誕生日でもあるのだ。
二人は誕生日が同じで、幼い頃はよく一緒に誕生日を祝ってもらっていた。
「誕生日の日に台風なんて、運が悪いよね」
窓ガラスに、殴るような雨が力強く打ち付けている。
外の木々も激しく揺れていて、何だか不気味に思えた。ゆっくりと台風のピークが近づいている。
「ねえ、早めに家に入っておいた方がいいんじゃない? すぐ目の前だけど、一瞬でずぶ濡れになっちゃうよ? 私は一人でも大丈夫だから」
花菜がそう言うと、敦大は視線を落としながら口を開いた。
「……兄貴が来るかもしれないだろ」
「え? 敬也くん? 敬也くんに用事なら、家に居た方がいいんじゃないの?」
「違う!」
「あ、降ってきた!」
「早く入るぞ」
花菜は急いで鞄から鍵を取り出すと、ログハウスのドアを開けて中へ入った。
夏の終わりに敦大から譲り受けたログハウスは、カーテンと布団を変えただけでもだいぶ雰囲気が変わった。
「ほんとこの部屋、置いてある物があんたの物になっただけなのに随分と変わったように見えるよな」
敦大が控え目に部屋を見回しながら椅子に腰かけた。
「そうだね。あ、何か飲む?」
花菜は鞄を置くと、小さな食器棚へ向かいながら声をかけた。
「あ、俺が自分でやるから座れば?」
敦大も立ち上がり、食器棚まで歩いてくると隣に並んだ。
彼は最近になって、また身長が伸びたようだ。夏の頃よりも頭の位置が高くなっている。
「あっくん、最近また身長伸びたよね」
「あんたは伸びないよね」
「私だって、まだ少しは伸びてるはずだよ。あっくんが伸び過ぎなんでしょ」
春に再会したときは視線の位置が同じだったはずだ。だけど今では、頭一つ分くらい敦大の方が高くなっていた。
変わったのは身長だけじゃない。手も大きくなったし、肩幅もしっかりしてきた。
やっぱり敦大も男の子なのだと、花菜は何となく考えた。
「あっくんも、だんだん頼人パパに似てくるのかな」
「え?」
敦大はやかんをガスコンロに置きながら花菜を振り返った。
「敬也くんも頼人パパに似てきたでしょ? 優しいし、穏やかだし、頼りになるし。まあ、敬也くんのそういう所は昔からかもしれないけど」
「……」
「あ、でも、あっくんの顔は敦子ママ似かなぁ?」
敦大がゆっくりとこちらへ戻ってくる。
「だって、あっくんって顔は可愛いもんね。性格だって昔は――」
敦大の視線が花菜を射る。
その表情に、彼女は言葉を失った。
「あんたは兄貴が気に入ってんの? 優しいし、穏やかだし、頼りになるから。兄貴は俺とは真逆だよな」
「そんなことないよ。あっくんだって優しいじゃない。ごめん、なにか怒らせた?」
花菜の言葉に、敦大は軽く首を振ると、気を取り直したようにして口を開いた。
「いや、悪い。今日は気分良く過ごすって決めてたのにさ。あんたも誕生日なんだし」
「そうだった。朝は会えなかったから遅くなっちゃったけど、あっくんもおめでとう」
「お、おう」
そう、今日は花菜だけではなく、敦大の誕生日でもあるのだ。
二人は誕生日が同じで、幼い頃はよく一緒に誕生日を祝ってもらっていた。
「誕生日の日に台風なんて、運が悪いよね」
窓ガラスに、殴るような雨が力強く打ち付けている。
外の木々も激しく揺れていて、何だか不気味に思えた。ゆっくりと台風のピークが近づいている。
「ねえ、早めに家に入っておいた方がいいんじゃない? すぐ目の前だけど、一瞬でずぶ濡れになっちゃうよ? 私は一人でも大丈夫だから」
花菜がそう言うと、敦大は視線を落としながら口を開いた。
「……兄貴が来るかもしれないだろ」
「え? 敬也くん? 敬也くんに用事なら、家に居た方がいいんじゃないの?」
「違う!」