箱庭ガール
初夏1
初夏 ~前進~
「あら、何だか一雨来そうね。急いで買い物に行ってこなくちゃ」
遠くの空が暗い。
敦子が、窓の外を気にしながら言った。
「私が行ってきますよ。何が必要ですか?」
「あ、花菜ちゃんは敦大に傘を持っていってもらいたいんだけど、いいかしら?」
「あっくんに傘を届けてくるだけでいいんですか? 買い物も行けますよ?」
「いいのよ。買い物は私が行ってくるわ。今日はちょっと多いから、敬也を連れていくわ」
じゃあ宜しくね、と言って、敦子は出掛ける準備を始めた。花菜も急いで二階の自分の部屋へ向かう。
クローゼットにあるバッグを肩からさげると、彼女は玄関へ向かった。
自分の傘と敦大の傘を握り外へ出る。
雨はもう、いつ降りだしてもおかしくないだろう。空は既に、暗いグレーに染まっていた。
敦大は駅前の本屋に居るはずだ。
彼もこの天気に気付いただろうか。早足で向かい始める。行き違いになってしまうかもしれないと思い、気持ちが焦った。
彼とはもう少しよく話がしたいと思っている。これがチャンスかもしれない。
あの花見から一ヶ月が過ぎようとしていた。
敦大と花菜の仲は、あの日から何となくスッキリしないままだ。怒っているのかいないのか、嫌われているのかいないのか。彼の心情はよく分からない状態だ。
怒らせているのならば謝らなくてはいけないし、嫌われているのならば、極力関わらないように生活しなければならないだろう。
ぽつりと頬に雫が当たった。ついに降ってきてしまったようだ。
雨粒はあっという間に数を増やす。花菜は素早く自分の傘を広げて更に足を早めた。
駅前通りの商店街へ入る。数メートル歩くと右手に書店が見えた。
入口近くまで歩いていくと、屋根の下で雨宿りをしている人が、何名か立ち往生している。その中に敦大の姿を見つけた。
彼は睨むようにして、空を静かに見上げている。
「あっくん」
何となく遠慮がちに声をかける。その呼びかけに気付くと、彼はすぐに視線を彼女へ向けた。
「……!」
「あの、傘、敦子ママに頼まれたから」
花菜は彼の傘を差し出した。ほんの少し間があって、彼はそれを受け取った。
「……なぁ、このまま帰んの?」
「え? うん、帰るよ」
(驚いた。あっくんが私の行動を気にする事があるなんて)
「ちょっと、いい?」
そう言いながら、敦大は歩き出した。こちらから誘う前にあちらから誘ってくれるとは好都合だ。
「うん」
花菜は迷うことなく彼に付いていった。
帰り道を二人で歩く。自分から誘っておきながら、敦大はずっと無言でいる。
このままでは、何も会話をせずに自宅に着いてしまうかもしれない。
ここは自分から何か話し出すべきなのだろと彼女は思う。
(よし)
花菜は静かに深呼吸を一つすると、少し前を歩く彼に言葉を投げかけた。
「あっくん」
すると、敦大は歩く速度を落として、無言のままこちらを振り向いた。
「えっと、どこに行くの?」
「人気のない所」
「あら、何だか一雨来そうね。急いで買い物に行ってこなくちゃ」
遠くの空が暗い。
敦子が、窓の外を気にしながら言った。
「私が行ってきますよ。何が必要ですか?」
「あ、花菜ちゃんは敦大に傘を持っていってもらいたいんだけど、いいかしら?」
「あっくんに傘を届けてくるだけでいいんですか? 買い物も行けますよ?」
「いいのよ。買い物は私が行ってくるわ。今日はちょっと多いから、敬也を連れていくわ」
じゃあ宜しくね、と言って、敦子は出掛ける準備を始めた。花菜も急いで二階の自分の部屋へ向かう。
クローゼットにあるバッグを肩からさげると、彼女は玄関へ向かった。
自分の傘と敦大の傘を握り外へ出る。
雨はもう、いつ降りだしてもおかしくないだろう。空は既に、暗いグレーに染まっていた。
敦大は駅前の本屋に居るはずだ。
彼もこの天気に気付いただろうか。早足で向かい始める。行き違いになってしまうかもしれないと思い、気持ちが焦った。
彼とはもう少しよく話がしたいと思っている。これがチャンスかもしれない。
あの花見から一ヶ月が過ぎようとしていた。
敦大と花菜の仲は、あの日から何となくスッキリしないままだ。怒っているのかいないのか、嫌われているのかいないのか。彼の心情はよく分からない状態だ。
怒らせているのならば謝らなくてはいけないし、嫌われているのならば、極力関わらないように生活しなければならないだろう。
ぽつりと頬に雫が当たった。ついに降ってきてしまったようだ。
雨粒はあっという間に数を増やす。花菜は素早く自分の傘を広げて更に足を早めた。
駅前通りの商店街へ入る。数メートル歩くと右手に書店が見えた。
入口近くまで歩いていくと、屋根の下で雨宿りをしている人が、何名か立ち往生している。その中に敦大の姿を見つけた。
彼は睨むようにして、空を静かに見上げている。
「あっくん」
何となく遠慮がちに声をかける。その呼びかけに気付くと、彼はすぐに視線を彼女へ向けた。
「……!」
「あの、傘、敦子ママに頼まれたから」
花菜は彼の傘を差し出した。ほんの少し間があって、彼はそれを受け取った。
「……なぁ、このまま帰んの?」
「え? うん、帰るよ」
(驚いた。あっくんが私の行動を気にする事があるなんて)
「ちょっと、いい?」
そう言いながら、敦大は歩き出した。こちらから誘う前にあちらから誘ってくれるとは好都合だ。
「うん」
花菜は迷うことなく彼に付いていった。
帰り道を二人で歩く。自分から誘っておきながら、敦大はずっと無言でいる。
このままでは、何も会話をせずに自宅に着いてしまうかもしれない。
ここは自分から何か話し出すべきなのだろと彼女は思う。
(よし)
花菜は静かに深呼吸を一つすると、少し前を歩く彼に言葉を投げかけた。
「あっくん」
すると、敦大は歩く速度を落として、無言のままこちらを振り向いた。
「えっと、どこに行くの?」
「人気のない所」