ドレスと一緒に私も売れました【優秀作品】
「じゃあ、早速、出かける準備をして
ください。
靴やバッグは途中で買うので、有り合わせで
大丈夫です。
メイクとヘアアレンジもプロにさせます。
着替えもそこでできるので、ドレスだけ
持ってついてきてください。」

と急かされ、私は急いで店の外に「Close」の札を下げ、ショーウィンドウのトルソーから赤いドレスを脱がせ、そのままの格好で、普段使いのバッグと軽く梱包したドレスを手に男性のもとに戻った。

すると、男性は右手を差し出し、さりげなくドレスを持ってくれて、空いた左手で私の右手を握った。

男性と手を繋ぐなんて、3年前に元彼と別れて以来で、どうしていいか分からずうろたえる。

だって、この人、私にとっては初対面と言ってもいい人で…

私がひとりドギマギしていると、男性は優しく私の顔を覗き込んで言った。

「今から、俺たちは恋人。いいね?」

さっきまで「私」って言ってた男性が「俺」って言うだけで、突然男に変わった気がして、余計にドキドキする。

しかも、超イケメンだし。

いくら私が面食いじゃなくても、これは舞い上がるよね。


男性は店先に止めた高級車の助手席のドアを開け、私を座らせると、後部座席にドレスを掛け、運転席へと回った。


車を走らせることものの3分。

着いたのは、すぐそばの商業施設の通用口。

彼は当然のように私の手を引いてそこから中に入る。

応接室のような所に通され、ソファーを勧められた。

わけが分からないまま、そこに腰掛けると、高そうなバッグや靴が持ち込まれる。

男性がその中から、バッグと靴を選び、私に見せる。

「どう? このドレスに合うと思わない?」

クリムゾンレッドのドレスを引き立てるシャンパンゴールドのクラッチバッグとお揃いのピンヒール。

「はい。素敵だと思います。」

私が答えると、満足そうに、

「じゃあ、着替えようか。
そこの奥の部屋を使っていいから。」

と先に立ってドアを開けてくれる。

私は、言われるままに部屋に入り、着替える。

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