ドレスと一緒に私も売れました【優秀作品】
本当にいいの?
履いてしまったら、もう売り物にはならないよね。
これ、私じゃ買えないくらいハイブランドの靴とバッグだけど。


そんな事を思いながらも、流されるように着替え、男性の待つ部屋へと戻る。

そこには、今度は美容師さんと思しき人が来ていて、あっという間に私のひっつめ髪が解かれ、丁寧に巻かれていく。

初めてプロにメイクをされ、なんだか変な気分。

美容室じゃないから、私の前に鏡はなく、自分が一体、今、どうなっているのか、さっぱり分からない。

「うん。すごくお綺麗ですよ。
専務、いかがですか?」

美容師さんが男性に声を掛ける。

ん? 専務?
じゃあ、この人…


「ああ、すごく綺麗だ。
君に頼んで良かった。ありがとう。」

男性にそう言われて、なんだか恥ずかしくなった。

この美容師さんがどんな腕が良くても、どんなに頑張っても、所詮、元は私なんだから、そんなに綺麗になるはずがない。

鏡を見なくても、そんなことくらいは私にも分かる。

「紬(つむぎ)、こっちにおいで。
鏡を見たいだろ。」

専務さんに手招きをされ、姿見のある所まで行く。

鏡を見て驚いた。

元々二重だった目が、アイラインとつけまつげに縁取られ、いつもの倍くらい大きな目に見える。

唇も、いつものベージュ系の口紅ではなく、ドレスに合わせたクリムゾンレッドの華やかな口紅に艶やかなグロスが塗られている。

パールのルースパウダーで肌も艶やかさを増しているし、何より、自作のドレスがとても華やいで見える。


驚いて固まる私に、

「な、綺麗だろ?」

と専務さんが言った。

そして、後ろから手を伸ばして、キラキラと眩いほど輝くネックレスをつけてくれた。

襟足に触れる手にドキッとする。

そんな所、元彼以外誰も触れたことがないから。

鏡を見ると、首元が華やかになり、一層、ドレスも高級感溢れるものに見えた。

そのまま、今度はイヤリングを付けてくれるが、突然、耳に触られて思わず首を竦めてしまった。

「くくっ
紬はここが弱いんだな。
覚えておこう。」

そんなこと、言わなくてもいいのに。

「いいです。自分でつけます。」

私はそう言うけれど…

「いや、これは俺の楽しみだから、紬には
やらせてやらない。」

と宣言されてしまった。

楽しみって何!?
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