Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
その人が、どうやら俺に目を付け、なんとか一人前にしてやろうと、してくれてるらしい。着任以来、年上にも遠慮なく、ビシビシやって来る課長だが、俺には人一倍厳しい。


それが、俺を嫌ってのイジメとかではないことは、ちゃんとわかっている。


だけど、その課長の期待に全く応えられない自分がいる。まだ社会人一年生、そう逃げたくても院卒で、同期よりも年長であるという現実が、その言い訳に逃げ込むことを許されない・・・と思ってしまう。


今も俺はポツンと1人、試食をしている。それが別に苦痛ではない。むしろありがたいくらいなのだが、それじゃ世の中渡ってけないよ。


普通なら、とっくにわかっていなきゃいけないことを今更に、課長に突きつけられ、足掻く日々。


俺はやっぱり、普通にビジネスの世界に出るべき人間じゃなかったのかもしれない。そんな苦い思いを抱きながら、試食の感想をメモ書きに纏めていると


「ねぇ、この餃子、今までよりパリパリ度が上がってる気がしない?」


と横から声が。えっ?と思って振り向くと


(石原・・・。)


ちょっと驚いている俺に構わず、石原は俺の書いているメモを無遠慮に覗き込んで来る。


「ウワッ、相変わらずビッシリ色んなこと書いてるね、さすが。でも・・・。」


「うん?」


「それを言葉で直接伝えることも大事じゃないかな?澤城くんにとっては。」


痛いとこ、突かれた・・・。
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