Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
夕方になるに従って、いよいよ風雨は強まる一方。


「判断が出た。今日は基本的に、これで業務は打ち切る。準備ができ次第、順次退勤してくれ。」


部長の言葉に、オフィスが一斉に動き出す。


「鉄道各社は、5時以降、順次計画運休に入るそうだ。急いでくれ。」


課長代理が情報を、私達に伝えている時に、電話が鳴る。目の前にいた私が出ると


『小笠原です。』


「課長、お疲れ様です。」


『そっちの状況はどうだ?』


「はい、今退勤指示が出ました。」


『そうか。石原は大丈夫か?』


「まだ電車は動いてるみたいなんで。」


『ならよかった。気をつけて帰ってくれ、本当は一緒に帰りたかったんだが・・・ゴメンな。』


「いえ、大丈夫です。あの、部長に替わります。」


本当は、小笠原さんも気をつけてねって言いたかったけど、それは後でLINEで伝えよう。部長に電話を回し、私も退勤準備を進めようとすると


「えっ、本当に?」


と千尋の声が。私が驚いて、彼女の方を見ると


「課長代理、田代からです。研修は終わったそうですけど、澤城が・・・こっちに戻るからって、彼女置いて、研修所出ちゃったそうです。」


澤城くんと同行している、ウチの課のもう1人の新人田代和美(たしろかずみ)ちゃんから、困惑した声で、電話が入って、驚いた千尋が課長代理に告げる。


「何だって?」


その報告に、慌てて千尋から電話を変わった課長代理は、和美ちゃんに状況を聞き、とりあえず君はもう、そのまま帰れと指示して、受話器を置くと


「誰か、澤城の携帯に連絡してくれないか?」


「してますが、留守電になって繋がりません。」


と木村さん。


「プライベートのケー番、知ってる奴は?」


「はい、掛けてみます。」


と私が掛けるけど


「ダメです、こっちも留守電に。」


「全く・・・何考えてるんだ、アイツ。」


舌打ちする課長代理の顔を見ながら


(澤城くん・・・。)


私も不安になる。
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