Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
連絡がつかんものは、仕方がない。もう子供じゃないんだからという部長の判断で、とりあえず今日は帰宅せよとの留守録メッセージは入れて、私達は帰宅の途につく。


「うわぁ、凄くなって来たね。」


「急がないとビショ濡れだよ。」


そんなことを言いながら、千尋と駅に急いでいた私だったけど、その足取りは段々と重くなって来る。


そして、そろそろ駅が見えて来ようかという頃、ついに足を止めてしまった。


「どうしたの?梓。」


いぶかしそうに尋ねる千尋に


「千尋、ゴメン。先に行ってて、忘れ物しちゃった。」


「えっ?でも、もう明日にした方が・・・。」


「そうもいかないんだ。じゃ、気をつけてね。」


「梓!」


止めようとしてくれる梓を振り切るように私は、来た道を走り出す。


結局、かなり濡れてしまったけど、私は会社に戻った。通用口で警備員さんに驚かれてしまったけど、忘れ物をしたからと告げた後


「澤城くん、戻りましたか?」


と聞いてみるが、まだだとの返事で、私はとりあえずオフィスに戻る。


オフィスは当然、既にもぬけの殻。とりあえず電気を点け、焼け石に水の感はあるが、ハンカチで頭や顔を拭いた私は、自分の席に着くと、携帯を取り出した。


『お疲れ様でした、大丈夫ですか?』


とLINEした相手は小笠原さん。すぐに返事が来た。


『お疲れ。こっちは大丈夫。俺は、直帰ならむしろ会社からより、近いくらいだからな。石原はもう会社出たのか?』


『はい。今電車に乗りました。』


とウソの返信をしてしまう。


『なら、よかった。今ならなんとかちゃんと帰れるだろ。でも心配だから、家に着いたら、必ず連絡くれよ。』


『はい、ありがとうございます。小笠原さんも、着いたら連絡下さい。』


『OK。』


そんな会話を交わしていた時だった。
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