Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
「バカ。」


という声と共に、タオルが頭に降って来て、ビックリして振り返る。


「澤城くん。」


見れば澤城くんが、厳しい顔で立っている。


「何忘れたんだか、知らないけど、こんな天気にノコノコ戻って来て、その上、そんなビショ濡れの恰好で、なにLINEなんかしてんだよ。風邪ひきたいのか、とにかく拭けよ。」


「でも・・・。」


「安心しろ。ここに戻って来る途中で買ってきた新品、俺の使い古しじゃねぇよ。」


なんて言ってる澤城くん自身がビショ濡れ。私が遠慮すると


「いいから使えよ。」


なんて言いながら、さっきの私みたいに、ハンカチでゴシゴシ頭を拭いてる。悪いなと思いながら、お言葉に甘えてタオルを使わせてもらいながら、ハタと気付いた。


「そう言えば、澤城くんこそ、なにしにこんな時に戻って来たのよ。全然連絡は取れないし、みんな心配したんだよ。」


「しょうがねぇだろ。明日までの書類がまだ完成してねぇんだよ。今夜は徹夜してでも上げなきゃいけないから、今日は何がなんでも帰って来るつもりだったんだ。」


「だったら、そう言えばいいじゃない。置いてきぼりにされた和美ちゃんは、心配して泣きべそかいて連絡して来たんだよ。そういうところがダメなんだよ、澤城くんは。」


「なんだよ、俺に説教する為に残ってたのかよ、石原は。」


反省する様子もなく、そんな言い方をして来る澤城くんにカチンと来た私は


「帰る!どうぞ、お気の済むまで、残業して下さい。」


とタオルを澤城くんに投げつけるようにして、立ち上がると


「もう無理だよ。」


と澤城くんが冷静に一言。ハッとして下がっていたブラインドを上げて、外を見て、固まる私。


「今出て行っても、電車に乗れないくらい全身ずぶ濡れになるか、風に吹っ飛ばされて、病院送りになるのがオチだぜ。だからバカだって、言ったんだ。どうするんだ?俺はそこらへんのソファでごろ寝出来るけど、女子はそうもいかないだろ。」


(どうしよう・・・。)


立ち尽くす私・・・。
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