Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
建物の中は、別に私達だけしかいないわけじゃない。


昼夜常駐の警備会社の人はもちろん、仕事が終わらずに残ってる人、それに緊急時に備えて今日は泊まり込みになった人達・・・でも私達のオフィスには今、私と澤城くんの2人きり。


澤城くんは宣言通り、自分の仕事に没頭していて、私の存在には目もくれない。


私はチラチラと外の様子を見るが、とても外に出ていける状況じゃない。ニュースを見る限り、まだしばらくこの状況が続くらしい。


家には、帰りそびれて、現在は会社で待機中。ひょっとしたら、今日は帰れないかもとは連絡した。


問題は小笠原さん。こんなことになるとは思わなくて、心配をかけまいと軽い気持ちでついたウソが災いして、実はまだ会社とは言えなくて、電車の中で足止め中と言ってある。


結局心配をかけることになって、それこそ数分おきに、大丈夫かとLINEが来る。


自分が先に家に戻れてることが、申し訳ないと思ってくれてるらしく、クルマを出すから、電車が動き出したら、最寄り駅で降りろと言って来るから、大丈夫ですと必死に言う。


こんな状況で、クルマの運転なんてとんでもないし、心配かけてることとウソをついてしまってることが、とにかく申し訳なくて、私は居たたまれなくなる。


そんな中、いつの間にか、部屋からいなくなっていた澤城くんが戻って来ると、自分の机の上に置いてあったコンビニの袋から、おにぎりを取り出し


「食えよ。」


と私に差し出した。


「いいよ、今日徹夜かもしれないんでしょ?」


素っ気なく断る私に


「この状況で1人だけ食えるかよ。いいから食えよ。」


「澤城くん・・・ありがとう。」


結局、受け取ってしまった。正直、ちょっとお腹空いてたから、本当は嬉しかった。
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