Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
少し走ると、山の中には、少々場違いと思われる素敵な建物が。


「地元の美味しい肉を出すと評判の店なんだ。俺もネットのクチコミで知っただけなんだけど。とりあえず、入ってみよう。」


と言って、小笠原さんはハンドルを切った。


中に入ると、結構高級そうな雰囲気。あれっと私がちょっと戸惑ってると


「予約した小笠原です。」


「お待ちしておりました。」


えっ、小笠原さん、予約してたの、この店・・・。


「ご案内いたします。」


店員さんに言われて、小笠原さんは私の手を取り、私は顔を赤らめ、少々俯きながら一緒に歩を進める。


案内された席からは、クルマの中でも楽しんでいた紅葉が見える。だいぶ日が落ちて、暗くなって来たけど、まだ十分、景色は堪能出来る。


すぐにウエイターがオーダーを取りに来る。


「ここは任せてもらっていいか?」


「は、はい。」


「じゃ、本日のディナーを。」


「かしこまりました。」


慇懃に頭を下げて、立ち去るウエイター。ちょっと今まで連れて来てもらってたお店とは明らかに様子が違う。


「小笠原さん・・・。」


「この辺はブランド牛で有名なんだ。楽しみだな。」


動揺を隠せない私に対して、小笠原さんは普段と変わらず。対照的な私達。


やがて、前菜から始まって、コース料理が次々と運ばれてくる。


「本当はワインなんかあれば、最高なんだけど。クルマだから仕方ない。石原はよかったら飲めばいい。」


「いいえ、とんでもありません。」


お酒はそれほど好きじゃないし、第一、上司に運転させて自分だけ飲むなんて、とんでもない。私はブンブン首を振ってしまった。


メインディッシュのお肉はとろけるようだったし、デザートも甘過ぎずに上品な味。


それはそれは、美味しかったのだけど、当然お会計はそれなりの金額に。だけど当たり前のように、小笠原さんがお会計を。


今まではパスタとかうどんとか、庶民的なものばかりだったのに、いきなりのグレードアップ。


「あの・・・。」


「美味かったな。」


「は、はい。とても美味しかったです。でも・・・。」


「ならよかった。さ、行こうか。」


そう言うと、サッサと歩き出す小笠原さん。私は慌てて、後を追った。
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