Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
新人達が、私達の部屋で、腰を据えて、勤務に入ったのは、配属から4日目のことだった。


と言っても、私と澤城くんは、所属の課が違うし、彼らは今のところ、教育係からマンツーマンに近い状態で指導を受けてる状況。


昼食は、彼らだけでまとまって行くし、退勤も定時で一斉。私達との接触、交流はほぼ無に等しい。


それでも、同じ部屋に机を並べているのだから、何かの拍子で顔を合わせることはある。


何度か、彼と視線が合って、こちらはドキッとしてるのだが、向こうは全く表情を変えることなく、何の反応も示さない。


(私のこと、覚えてないのかな?やっぱり・・・。)


だとしたら、それはそれで、結構ショックなのだが、確かめるタイミングもキッカケもなく、時は流れて行く。


それから少し経つと、新人達は、教育係の手を取り敢えず離れ、スタッフとしてチームに組み込まれて、仕事を始め、私もウチの課の新人2人とは、少しずつ接触が始まった。


だけど、彼とは相変わらず。


「澤城さんですか?大人しい人ですよ。僕達ともあんまり喋んないし。まだ研修期間で、一斉退社だから、同期でメシ食いに行ったり、飲み行ったりすることもあるんですが、澤城さんは来たことないですね。」


ある日、さり気なく、ウチの新人さんに探りを入れてみると、院卒で年上だから、同期生からもさん付けで呼ばれているらしい彼の様子は、相変わらずなんだな、と思わせるものだった。
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