Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
そんなこんなで、彼らが配属されてから、そろそろ2週間になろうとする頃だった。


私がいつも通り、パソコンとにらめっこしていると


「ああ、それはあそこにいる石原さんの担当だから。」


という声が聞こえて来た。私が驚いて、その声の方向を見ると、澤城くんが、私の課の人に、何やら尋ねていて、その人が私を指差している。


「石原さん、こちらの新人さんが、君に聞きたいことがあるそうだ。」


「はい。」


そう声を掛けられ、私が返事をすると、澤城くんがツカツカと私に歩み寄って来る。


(えっ?)


突然の事態に、私がドギマギしながら、待ち構えていると


「なぁ。」


といきなりタメ口で話し掛けられた。


「は、はい。」


とこちらが、思わず丁寧な返事してしまうと


「この商品のリサーチデータ、これで合ってるのかよ?」


という言葉と共に、1枚の紙を突きつけられた。


慌てて、その紙に視線を落とすと、それはある新商品に対するモニター消費者達からの感想や評価を私がまとめた資料だった。


「縦計と横計が合ってねぇじゃん。これじゃ、訳わかんねぇよ。」


「・・・。」


見直して見ると確かにそうだ。思わず顔が赤くなる私。


「ご、ごめんなさい・・・。」


「資料作って、見直しもしないのかよ?だいたいこんなのEXCEL使えば、間違えようがねぇだろ。まさか今時、電卓でカチャカチャ計算してるんじゃねぇだろうな?」


そう遠慮会釈なく、まくしたてる澤城くんに私が何も言い返せないでいると


「ちょっと君、先輩に対して、その言い方は何?あんた敬語も使えないの?」


と隣の千尋がキレて、澤城くんに言う。


「別に同い年の奴に敬語なんか使わなくてもいいでしょ。だいたいこんなイージーミスする奴、先輩扱いなんか出来ませんよ。」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。」


そう言い捨てて、席に戻って行く澤城くん。


「なんなのアイツ。梓もなんで言われっ放しで黙ってるのよ。」


「だって、反論の余地なしだもん。」


「でもさぁ・・・。」


と代わりに憤慨してくれてる千尋には悪いけど、実は私は今、それどころじゃなかったんだ。


澤城くんは私のことを「同い年の奴」と言った。つまり・・・


(分かってたんだ、私のこと・・・。)


彼の後ろ姿を見ながら、そんなことを考えていた。
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