Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
その空気が破られたのは。お婆さんを1人連れた私服警察官が現れた時だった。


身分証を我々に提示して、話し始めたその警察官の口から、ようやく事故の状況がわかった。


小川と別れた後、石原はウィンドーショッピングを楽しみながら、街を歩いていたようだ。


すると、突然前を歩いていたお婆さんが倒れ込んだ。歩いていて、足がもつれ、右の足首を内側に捻ってしまったのだそうだ。お年寄りならずとも、経験のあることだ。


問題はお婆さんが車道近くを歩いていて、よりにもよって車道側に倒れてしまったことだった。驚いた石原が、お婆さんを助けようと、慌てて車道に飛び出して、自分が、はねられてしまったのだ。


はねた車も決して無茶なスピードを出していたわけではないが、とっさのことで、どうすることも出来なかったらしい。運転手は業務上過失致傷の容疑で、現在取り調べ中だが、家族でドライブの最中の事故で、茫然の有様だったそうだ。


お婆さんもそんな車道側を歩くなんて不注意だし、石原も軽率と言われれば、それまでだが、しかし聞いていてやりきれなくなった。


「私のような年寄りの身代わりになって、あんな若くて綺麗なお嬢さんが事故に遭うなんて・・・お詫びの申し上げようもありません。」


号泣して謝罪するそのお婆さんに、石原の両親も、どうかお手をお上げ下さいと逆に慰めるしかなかった。


いたたまれないような時間が過ぎて行く。
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