Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
「とにかく早く着替えて来なよ。そんな恰好じゃ病院行けないでしょ。」


キレ気味にそう言う小川に


「えっ、兄さんどこか具合でも悪いの?」


と真顔で栞菜がそんな反応をするから


「はぁ?サワ、栞菜ちゃん達に何にも言ってないの?」


とますますキレる小川。


「何か、あったんですか?」


と不安そうに聞く栞菜に


「昨日、梓が交通事故で入院して・・・。」


と小川が答える。すると


「えぇ?!」


と栞菜だけでなく、健吾までが驚いて、食卓から吹っ飛んで来る。


「どういうことですか?」


「アズちゃんの容態は?」


「意識不明で今、集中治療室に・・・。」


小川の答えに一瞬、言葉を失った弟と妹は、次に凄まじい形相で俺を見る。


「兄貴、何考えてんだよ!」


「そうだよ、私達に何にも言わないなんて、どういうつもりなの?」


そう言って詰め寄って来る2人に


「落ち着けよ。俺達は石原の親族でもなんでもない。それに俺達が病院に行ったところで、何の力になるわけでもないだろ。」


「兄さん、それ本気で言ってるの?」


「ああ。」


そう答える俺を、唖然として見つめる一同。


「石原とは小さい頃からの仲の小川はともかく、俺達が行ってもかえって迷惑かけるだけだ。だいたいお前達、今日は出掛けるって言ってたし、小川も確かデートだって・・・。」


次の瞬間、バッチ〜ン!それは見事な快音だった。小川の怒りの平手打ちが、俺の左頬にクリーンヒットする。潤んだ目で、俺を睨み据える小川のド迫力・・・。


「兄さん、ふざけてる場合じゃないでしょ。とにかくすぐに病院に・・・。」


「そんなに石原を死なせたいのかよ、お前達・・・。」


とりなすように言った栞菜に、俺は絞り出すような声で答える。その言葉に、また場の空気が固まる。
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