Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
「お前の気持ち、聞いたよ。小川さんから。内田と一緒にな。」


その課長の言葉に、俺はまた顔を上げた。次に内田を見ると、彼女は頷いて見せる。


「お前の気持ちは、わからんでもない。小川さんもそう言ってたな。」


「・・・。」


「だがな・・・梓は今、懸命に死神と戦ってる。悪魔みたいな奴らに、向こうに引きずり込まれようとしているのに、懸命に抵抗している。そんな彼女をこっちに引っ張り込んで、帰って来させることが出来るのは、悔しいが俺じゃない。ご両親を別にすれば、澤城、お前だけだ。」


「課長・・・。」


「梓の横に居てやってくれ。そして梓の手を握って、絶対に離すな。アイツを死の世界から引っ張り上げてやるんだ。梓も絶対にそれを望んでる。」


その言葉に、内田がまた大きく頷く。


「その為になら、有休なんかいくらでもやる。年末なんか関係ない。お前の代わりなんて、腐るほどいるんだ。だが、梓を救うことが出来るのはお前だけだ。」


「・・・。」


「だから、絶対に俺達の前に元気になった梓を連れて来い。これは上長としての命令だ!」


ちょっと、なに言ってるの、この人。もう滅茶苦茶だよ。だけど


「誰かに盗られるくらいなら、強く抱いて、君を壊したい・・・昔、そういう歌があったんだそうだ。だけど俺は・・・やっぱり梓には壊れて欲しくない。例え、それが自分の横でなくてもいい。生きて、そしていつでも優しく微笑んでいて欲しいんだよ!」


そう言いながら、課長の目から涙が溢れて来たのを見て、俺は本当に驚く。


「澤城くん、梓を必ず死神から、守って上げて。お願い!」


あんなに仲が悪かった内田までが、そんなことを言って来る。みんな、なんか勘違いしてねぇか?俺は医者でもなけりゃ、まして魔法使いでも超能力者でもねぇんだぞ。


正直、そう戸惑ってたはずなのに


「わかりました、行ってきます。」


と結局、2人に頭を下げて、駆け出した俺は、やっぱりこの場の雰囲気に酔ってたんだろうな・・・。
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