Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
目が覚めた時、まず目に入ったのは、白い天井だった。


(ここ、どこだろう・・・?)


私は誰?とは思わなかったけど、それが最初に頭に浮かんだこと。


凄くよく眠ったなぁという実感はあった。ただ状況が全く掴めずに戸惑っていると、横に人の気配を感じて、フッとその方に視線を向けた。そこにはスーツ姿の男の人が立っていて、何やら目頭を抑えている。


一瞬誰?!と思ったけど、よく見ると・・・


「澤城、くん・・・?」


そう呼び掛けていた。その声にハッとして、私の方を見た澤城くんは、一瞬息を呑んだように私を見て


「アズ〜!」


と叫んだかと思うと、私の身体の上にすがりついて来た。


「さ、澤城くん・・・どうしたの?」


思わず、彼の頭を撫でながら、聞くけど、澤城くんは泣きじゃくるばかり。私の中の?が最高潮に達した瞬間だった。


「梓!」


すると、私を呼ぶ聞き慣れた声。


「お母さん。」


そう呼び返すと、今度はお母さんが目に一杯涙を浮かべて私に近づいて来る。


「す、すみません。」


そう言って、慌てて私から離れた澤城くんの代わりに、お母さんが抱きついて来る。


「梓、梓・・・よく目を覚ましてくれたね。ありがとう、ありがとう・・・。」


「お母さん・・・。」


私がなんて返事をしたらいいか、困っていると、今度は看護師さんが、更にはその看護師さんからの連絡で、お医者さんが登場するに至って、私はようやく自分がなんらかの事情で、入院しているんだということを悟った。


やがて、お父さんが入って来た。


「梓・・・。」


私の横に立ったお父さんは、抱きついては来なかったけど、目を潤ませている。お父さんの涙を見たのは、たぶん初めてだった。


「お父さん、ごめんね。」


なぜか、そんなことを言った私に、お父さんはウンウンと頷いてくれる。


曜日の感覚も時間の感覚もなかったけど、今は夜の10時過ぎらしい。お父さんとお母さんに囲まれて、安らかな気持ちになっていた私が、いつの間にか澤城くんの姿がないことに気が付いたのは、少し経ってからのことだった。
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