Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
それからの私は、頭痛やふらつき等の後遺症に悩まされることもなく、お医者さんからは


「順調。」


の言葉をもらった。今はとにかく体力の回復に努めること、なんと言っても約2ヶ月の間、食事も出来ず、寝たきりだったのだから、とにかく食べて、無理のない範囲で、リハビリをして行こうという指示だった。


私が意識を失っていた間、付きっ切りに近かったらしいお母さんも、毎日顔は出してはくれるが、夕方には帰宅というサイクルになり、お見舞い客もだいぶ落ち着いて来た。


そんな中、美里は相変わらず、毎日のように顔を出してくれる。今日は彼氏さんと一緒に来てくれた。


ずっとデートより、私を優先してくれてたみたいだから


「ご迷惑をお掛けして、すみませんでした。」


と謝ると


「美里のあの顔を見たら、俺とのデートはどうするんだとは、とても言えなかったよ。君達ふたりの友情が羨ましかった。実は君達の話を生徒達にもさせてもらったんだ。友達の大切さを伝えたくってね。」


うわぁ、後輩達にそんな話をされちゃったんだ。私達は思わず、照れくさげに顔を見合わせてしまった。


だけど・・・美里曰くの「御三家」の残りの2人は、全く顔を見せてくれない。携帯にも何の連絡もない。


意識を取り戻した時、横にいて、泣いて私の身体に縋ってきた澤城くんは幻だったのかな?


千尋とは確かに大ゲンカしちゃったし、許せないって思ってた。でも今は会いたいな。


「千尋に初めて会った日、私、あの子を引っ叩いちゃった。『梓がこんなことになったのは、全部あんたのせいじゃない!』って怒鳴りつけたら、『ごめんなさい、あなたの言う通りです』って、泣きながら私に謝ってた。それから、しばらくは会っても無視してたんだけど、あんたの仕事、ほとんど引き受けて、それでも毎日のように病院に通い詰めて、あんたに寄り添ってる姿見てたら、いつの間にか名前で呼び合う仲になってた。私って単細胞だよね。」


美里はそんなことを言っていた。もう許してやんなよ、なんて安っぽい言葉は、口にはしなかったけど、美里が千尋を友達だと認めてるのを知った時、私の中のわだかまりはもうなくなっていた。


なのに・・・なんで会いに来てくれないんだろう?こっちから来てよって、お見舞いの催促するわけにはいかないしな・・・。
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