Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
1年で1番寒い時期だけど、今日は風もなく穏やかな晴天。私は、看護師さんに付き添ってもらって、病院の中庭をリハビリを兼ねて、散歩していた。


「今日はバレンタインデーだね。」


えっ、そうなんだ。入院してると曜日とか日付の感覚がどうしてもなくなってちゃって。


「そう言えば、最近彼氏来ないね。」


彼氏、ってやっぱり澤城くんのことを言ってるんだよね。でも彼氏じゃないし・・・でも彼氏だと思われるくらい、頻繁に見舞いに来てくれてたんだよね。なのに、意識取り戻した途端に、音沙汰なしって、酷くない?


「別に彼氏じゃないですし、それにちょっと変人なんで。」


と私がちょっとつっけんどんに答えると


「誰が変人なんだよ。」


と横あいから声が。驚いて、そちらを見ると


「澤城くん。」 


ちょっと怒った表情の澤城くんが。


「病室に行ったら、中庭だって言うから来てみれば、人の悪口かい?」


「別に悪口じゃ・・・。」


「まぁいいや。それよりホレ、お前の会いたがってた奴、連れて来たぞ。」


その言葉にハッとすると


「千尋・・・。」


少し離れた所に、ひっそりと立ってる千尋。視線が合って、ちょっと会釈して来る千尋に、私も慌てて会釈を返す。


「こんなところで話してて、風邪でもひいちゃ大変だから、病室に戻ろうぜ。」


その澤城くんの言葉に、私達は歩き出したけど、会話はない。病室に帰ると、それを見届けて、看護師さんはナースセンターに戻り、続いて澤城くんも


「ちょっとトイレ。」


と言って病室を出ると、私と千尋は2人になった。
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