Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
「あ、すまねぇな。なんか1人で語っちまって。ケーキ、せっかくだから食べてくれよ。」


「う、うん・・・。」


突然、そんなこと言われても、今とても、そんな状況じゃないし・・・。


「お茶、入れるよ。1回ブレイクだ。」


そう言って立ち上がる澤城くん、もう・・・!


仕方なく、私はケーキをまた口に運ぶ。美味しいのは、間違いない。でも、今の私は、その味を楽しむ心境じゃない。だって、このケーキは「大切な人」に食べさせるケーキなんでしょ、澤城くん・・・。


でも、結局、彼に見守られる形で完食する。甘過ぎず、口当たりの良さはまるで有名店のケーキみたい。


「ご馳走さまでした、本当に美味しかったよ。ありがとう、澤城くん。」


そうお礼を言うと


「よかった。そのケーキは全部食べて欲しかったんだ・・・アズの為に焼いたんだから。」


そう言って、澤城くんは微笑む。アズ・・・確かに澤城くんは今、私をそう呼んだ。あの時のように。私が思わず、彼を見ると


「本当はここじゃなくで、もっと別の所で、食べてもらいたかった。病院なんかじゃなくてさ。でも、今日はバレンタインデー、男からのアプローチもあり・・・だよな?」


照れ臭そうに、でもそんなことを言って来る澤城くんに、私の心拍数は急上昇する。


「長かったなぁ、2ヶ月。本当にいろんなことを考えさせられた。もうアズは目を覚ましてくれないのかもしれない、そんなことを考えちゃいけないって、懸命に思っても、その思いは嫌でも湧き上がって来た。悔しかったよ、そんなマイナス思考で、アズの横に立ってる自分が。やっぱり俺はアズと再会すべきじゃなかった。再会さえしなければ、アズはこんな目に合わずに済んだんじゃないか、そう自分を責めてることが。そして、何より悔しかったのは、アズへの想いをちゃんとわかってたくせに、正面から向き合うことから、ずっと逃げ続けて来た自分が。」


「・・・。」


「マグカップ・・・。」


「えっ?」


一瞬、何のことを言ってるのか、わからなかった私はキョトンとしてしまったけど


「あのマグカップ、アズのプレゼントだったんだってな。全然気が付かなかった、ありがとうな。」


と言う彼の言葉で、ようやくなんのことかわかった。
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