Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
そして、今、私は朝礼に出ている。今日は4月1日、エイプリルフールっていうことは、あまり関係がない。


事故に遭ってから約3ヶ月半、退院してからひと月。私は今日から仕事に復帰することになった。


「長い間、ご心配とご迷惑をお掛けしました。お陰様で、このようにすっかり元気になりました。今日からは、みなさんにご迷惑をお掛けした分を少しでも、取り戻せるように、仕事に専心したいと思います。改めて、よろしくお願いします。」


部長の後に、司会の小笠原さんに指名された私は、こう挨拶して、みなさんから拍手をもらった。でも、その中に、見えない顔があるのは寂しい。


「さ、今日も1日よろしく!」


朝礼の後の、いつも恒例の、でも久しぶりに聞く課長の掛け声で、業務が始まる。


「石原。」


「はい。」


「また、よろしくな。あまり初日から無理するなよ。」


「はい、ありがとうございます。」


私にこう声を掛けてくれた課長は、ポンと笑顔で私の肩を叩くと、デスクに向かう。そんな課長に一礼すると、私も自分のデスクに着く。


「梓さん、今日からまたよろしくお願いします。」


すると、満面の笑みで和美ちゃんが近付いて来た。私が意識を取り戻した次の日に、病院に駆けつけて、大泣きしてくれた可愛い後輩は、書類を私に差し出した。


「千尋さんからの引き継ぎ書です。私も聞いてますけど、何かわからないことがあったら、遠慮なく電話して下さい、とのことでした。」


「ありがとう。和美ちゃん、またいろいろよろしくね。」


「はい。」


直前の人事異動で、千尋は広報課に異動となった。私の不在中、私の穴をカバーすべく、獅子奮迅の活躍だった彼女が、忙しい合間を縫って、作っておいてくれた書類は、千尋らしい几帳面な、微に細に渡った内容だった。


(ありがとうね、千尋・・・。)


隣の空席が、正直寂しかった。
< 214 / 225 >

この作品をシェア

pagetop