Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
今回の辞令で、課長代理と木村さん、それに千尋と3人も異動になった。いずれもマーケティング課が長かったベテランで、その穴埋めに来た人もいるが、今頃、緊張しながら入社式に臨んでいる新人も配属される予定。


人員的にも、陣容的にも不足の状態で、無理はするなとは言われたけど、のんびりとリハビリしながら・・・なんて状況ではなかった。


文字通り、あっと言う間に午前中が過ぎ、お昼の時間。1人で久々の社食のご飯を味わっていると


「何してんの?こんなとこで、ポツンと1人で。」


との声がして、顔を上げると


「千尋。」


エレガントなスーツに身を包んだ千尋が立ってる。


「カッコいいねぇ、とっても似合ってるよ。」


「やだ、からかわないでよ。」


「からかってるわけじゃないよ、本当に素敵だよ。」


その私の言葉に、照れ臭そうに笑った千尋は


「午前中、プレスリリースがあってさ。私は場慣れの為に、ただ会見場にいただけなんだけど、一応ね。」


「でも、華やかそうで、千尋にはピッタリの部署じゃない?」


「どうだろ?まだほんの数日だけど、私はマーケティング課の方が自分の性には合ってた気がする。」


「そっか、ごめんね・・・。」


ちょっと寂しそうな千尋に、思わず、私はそう口走る。実はこの異動は、内示の段階では、私が対象だったらしい。


付き合うことになりそうな状況で、課長は私を自分の部下から外した方がいいと考えたようなんだけど、うまくいかなかったことに加え、私が入院するという事態になったことから、結局千尋に異動のお鉢が回ることになったみたい。


「大丈夫だよ、別に梓が謝ることじゃないし。今は、覚えることだらけで、ちょっとホームシックみたいになってるだけだから。そのうち、『マルタカの美し過ぎる広報』として、マスコミに取り上げられるように頑張りますから。」


「そうだよ、その意気だよ。」


そう言って、私達は笑い合う。


「ところで、話は戻るけど、なんで梓、1人で寂しくご飯食べてるのよ?」


「えっ、それはさ・・・。」


だって、入社以来、ランチを共にしてた千尋は異動して、もう課長と一緒ってわけにも、いかないし、ね。


「サワは何してるのよ?」


その千尋の言葉に、ハッとする。
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