Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
神社が近付いて、人の数が多くなる。


「気をつけてな。」


そう声を掛けてくれたヒロくんに、私はそっと腕を絡める。


「これなら安心。」


私がそう言って、彼を見つめると


「お、おう・・・。」


顔を赤らめて、ヒロくんは答える。あっ、照れてるんだ・・・彼の様子がおかしい理由が、ようやくわかって、ちょっとホッとすると共に、なんか微笑ましくなる私。


15年前、私は彼とここで出会った。見ず知らずの私が困っているのを助けてくれたヒロくん。


私をからかっていたクラスメイトを追っ払ってくれて


「大丈夫か?」


と優しく問い掛けてくれた。コクンと頷くと


「そっか。なんか調子に乗ってる奴がいるから、気をつけろよ。」


そう言って私の頭をポンポンとしてくれたあと


「行くぞ。」


と一緒にいた弟と妹に声を掛けて、歩き出して行った。その後ろ姿を見送っていた私は、その時、恋に落ちてたんだ。


ううん、その時には、恋だなんて思いもしなかった。ちゃんとお礼もしてないことに気付いて、次の日から、当てもなく、彼を探し回った。


美里に協力してもらって、3日目に、弟と一緒に下校途中の彼を見つけたけど、何も言えず、尾行して名前と家を確認しただけ。


そのあと、飛んで帰って、お母さんからクッキーの焼き方を習った。何回かの試行錯誤の末、ようやくまともな味のものが出来て、箱に入れてラッピングして、これを持って、明日、彼のところにお礼に行く。そう決めてベッドに入った。


そして、学校が終わった後、勇気を振り絞って、彼の家を訪ねると、今日は校外授業で、帰りはいつもより遅いとのこと。


ガッカリして帰ろうとする私を引き止めて、家にまで上げてくれたお祖母ちゃんと弟の健吾くん、妹の栞菜ちゃんとは、すっかり仲良くなったけど、5時を知らせるチャイムが町内に鳴り響くまで、肝心の彼は帰って来ず。


仕方なく、クッキーをお祖母ちゃんに預けて、帰宅したんだけど、結局、このすれ違いが響いて、その後も彼には何も言えずしまい。


彼の姿を見かけても、金縛りにかかったように近づく事もできず、なんでだろうと思っていたけど、ようやくその理由に思い当たって


「私、彼のこと好きみたい。」


と美里に告げたのは、6年生も終わりに近づいた頃。


「今頃、何言ってんの?」


私の気持ちに、とっくに気付いていた美里に笑われた。
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