Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
「ひょっとして、石原、さん?」


私を呼び止める声がして、振り向くと、1人の男子の姿が。誰だったっけな・・・私が懸命に記憶の糸を手繰り寄せていると


「覚えてねぇかな?小学校の時、クラスメイトだった斎藤章(さいとうあきら)。」


名前を聞いて思い出した。斎藤くんって・・・誰あろう、15年前のお祭りで、私をからかって来たその人。つまり、私とヒロくんが出会うきっかけを作った人。


よりによって、今日この日に、この場所で再会するなんて。


私が言葉も出ずに、驚いていると


「いやぁ、まさかここで再会するとはなぁ。ちょっとバツ悪いなぁ。」


と斎藤くんの方も苦笑い。


「今更なんだけどさ、あの時はゴメンな。俺、ガキだったから・・・。」


「ううん。でも斎藤くん、変わったね。全然わからなかった。」


「オヤジになったってか?」


「そう言うんじゃないけど。なんか大人になったと言うか・・・。」


「そりゃ、会うのは、それこそ小学校卒業以来だし、こう見えても一児の父だから。」


「えっ、そうなの?」


「大学卒業したあと、こっちに戻って来て、すぐ結婚したんでね。」


そっか、あの悪ガキ斎藤くんがね・・・。


「そういう石原さんだって。まぁ面影はあるけど、見違えるように綺麗になったよ。あの頃も可愛かったけど、な・・・。」


「えっ?」


そんなことを言って、照れ臭そうにした斎藤くんは


「あっ、彼氏さんの前で、こんなこと言っちゃ、まずかったかな。ゴメン。」


とすまなそうな表情になる。


「実はね、あの時、私を助けてくれた人なんだ。」


私がそう告白すると、目を丸くする斎藤くん。


「マジ?じゃ俺、恋のキューピットしちゃったわけか。なるほどねぇ・・。ま、今の言葉は、それに免じて勘弁して下さいよ。」


そう言って笑う斎藤くんに、私達も笑顔になる。


「デート中に邪魔して悪かったな。つい、懐かしくてさ。じゃ。」


お父さんと同じハッピを着ていたから、お祭りの役員をやってるんだろう。私達に挨拶すると、斎藤くんは足早に去って行った。
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