Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
それからも、そんな俺の学校での生活は変わらなかった。


夏休みが過ぎ、定期試験や運動会、秋には修学旅行もあった。仲間とワイワイやることは出来なかったけど、俺は俺なりにちゃんと楽しんでた。それが俺のペースだったんだ。


そして、2学期が過ぎ、年が明けて、俺達の中2生活も徐々に残り少なくなって来た頃だった。


下校しようと、校門に向かっていた俺が、体育館の横を通ると、翔真の姿が見えた。


「翔真!」


普通なら俺が人に声を掛けるなんて、あり得ないが、翔真なら話は別だ。


「何してんだ、部活行かねぇのかよ?」


卓球部に入って、熱心に活動している翔真が、こんな所で油を売ってるなんて珍しいなと思っていると


「あ、ああ、裕孝か。これから行くところだよ。」


となぜか、俺の方を見ずに答える翔真。そんな翔真の態度に違和感を感じた俺は


「おい、どうした?」


と言いながら、奴の正面に回って驚いた。翔真は、泣いてたんだ。


「翔真・・・。」


いつも明るい翔真の泣き顔なんて、保育園以来見たことがない。ビックリして問いただす俺に


「やられちまったよ。」


と泣き笑いの声で言うと、翔真は手に持っていた紙を俺に手渡した。


そこには、明らかな女子の文字で


『お話したいことがあります。今日の放課後、体育館裏で待ってます。必ず来て下さい。』


と書かれていた。


「お前、これ・・・。」


「あぁ、今流行の奴。すっかり騙されちまったよ。」


2学期の終わりくらいからだろうか。こんな手紙で、男子を呼び出しては、ノコノコ現れたそいつを集団で取り囲んで、馬鹿にして、楽しむというくだらない遊びが、一部の女子の間で、行われているという話は耳にしていた。


その餌食に翔真がされてしまったのだ。


「バカだよなぁ俺。鼻の下伸ばして、身の程知らずに出向いて、とんだ恥かかされた。」


そう言って、肩を震わす翔真に、俺は掛ける言葉も見つからず、ただ奴の肩を抱いてやることしか出来なかった。


手紙には、ご丁寧に差出人の名前が書かれていた。同じクラスの小川美里だった。


(小川・・・ふざけやがって、許せねぇ。)
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