Only you〜伝えたかった、たったひとつのこと〜
ところが、次の日は、私はどうしても仕事が終わらず、試用期間中でまだ残業のない澤城くんは、私を待つ素振りも見せず、サッサと退社して行く。


ちょうどその時、取引先と電話で話していた私は、その彼の後ろ姿を虚しく見送るだけだった。


このままじゃまずいと、私が焦ってると、次の日、彼が私のデスクに近づいて来た。


「石原さん。」


「は、はい。」


いきなり、さん付けで呼ばれて、私が驚いてると


「この書類、課長から預かって来ました。お願いします。」


「はい。」


そう言って、踵を返す澤城くん。


「へぇ、ちゃんと敬語使えんじゃん。アイツ。」


と妙な感心をする千尋の横で、私が渡された書類を確認すると、何やらメモが付いている。目を落とすと


『仕事の進捗状況くらい、連絡して来いよ。』


という文字と共に、ケー番とアドレスが書かれていた。


(澤城くん!)


私は、思わず彼の席の方を見ると、急いでそのメモをしまった。


昼休み、私は貰ったメモを見ながら、メールを送った。


『石原です。ケー番とメアド、ありがとうございました。澤城くんのが、ゲット出来るなんて、光栄です。夕方また、状況を報告します。あと、ケー番書いときます。よろしくお願いします。』


少し経つと返信が。


『仕方ないだろ。石原の為に、当てもなく、待たされるなんて、ゴメンだからな。』


澤城くんらしい、言い草だと思った。


そして3時の休憩の際にもう1度メール。


『30分くらい残業になりそうです。待っててもらえますか?』


『了解。』


すぐに素っ気ない返信。でも、これでいよいよだ。私は、絶対30分以上、残業にならないように、気合いを入れた。
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